医療の目的・治療法と誠快醫院の基本理念

1.医療の目的は治癒>延命>症状軽減>予防の4つ
読者に「医療の目的は何だろうか」と聞いたとき、どう答えるだろうか。ほとんどの人は「それは当然病気を治すことだ」と答えるであろう。しかし、本当に医療は病気を治しているのだろうか。例えば、高血圧を指摘されたとき、医療機関に行くと降圧薬が処方される。服用すればほぼ確実に血圧は下がる。ところが、薬を中止すればあっという間に血圧は元通りか、ときにはリバウンドで服用前よりも高くなる。結局、降圧薬治療は症状を抑えているだけで本当の意味で治していない。
筆者が医療の目的は何かという根本的な疑問を持つようになったのは、ある大事件がきっかけだった。それは7年前(2018年)9月に大腸がんが見つかり、大腸の半分を切除する手術を受けたことである。そして手術後に抗がん剤治療が控えているのは医学の常識だが、開業以来多くのがん患者さんを診てきて抗がん剤の副作用の強さには恐怖を感じていた。発がんという境遇に放り込まれ、原点である医療の目的や方法について真剣に考えざるを得なくなった。
そこで医療の目的についての公式見解を探してみると、日本医師会の検討委員会が2000年2月に発表した「医の倫理綱領・医の倫理綱領註釈」が見つかった。それによると、医療の目的とは「患者の治療と、人びとの健康の維持もしくは増進(病気の予防を含む)」とされている。漠然と患者の治療や健康の維持もしくは増進(病気の予防を含む)となっているが、それを裏付ける理念がよく分からない。つまり筆者にとっては抽象的で具体性に欠け、いざがんが見つかったときの治療方針決定には役立つとは思えなかった。そこで、仕方なく今までの臨床経験・知識を元に筆者なりに医療の目的について考えてみた。臨床場面を思い起こして分類すると、医療の目的は大きく4つあることに気づいた。それは順に、治癒>延命(時間稼ぎ)>症状軽減>予防、の4つである。臨床の現場での治療方針決定もこの順番でなされる。
がんの治療を例にとれば、がんが見つかったとき、まず病巣切除の手術が行われる(治癒目的)。条件がよければ手術のみで再発することなく治癒が得られる。その後転移が存在するか再発したときには抗がん剤が行われるが、多くの場合目標は治癒ではなく延命となる。抗がん剤の効果が消失し、病状が進行したときには緩和ケア病棟(ホスピス)での症状軽減が医療の目的となる。このほかに予防医療があるが、東洋医学で言う「上医は未病を治す=レベルの高い医者は病気を未然に防ぐ」は残念ながら軽視されているのは否めない。
病院や医院の臨床現場では、意識されることなく担当医により治癒>延命>症状軽減(>予防)の順で優先順位が付けられ医療が実行される。なぜそうなるかの理由は、医学部で治療方針や治療方法決定の優先順位についての講義がないからなのだ。現実には、学会の定めた診療ガイドラインに沿って問診、検査、病名診断、治療のプロセスが機械的に進んで行く。結果として、延命のためならばどれほど辛い副作用も我慢すべき、としてほぼ100%副作用を伴う抗がん剤治療が行われている。
もちろん、こうしたプロセスで全ての病気が根本的に治るならば、何の問題もない。しかし、実際には症状だけ取る対症療法が大部分を占めていると言っても過言ではないのは読者も納得することだろう。
筆者は医療に転進する前に建築設計の仕事をしていたことがある。建築を設計するときにはまず住宅やオフィスなど用途を決めるのが出発点となる。続いて土地の面積や予算など与えられた条件の中で、耐震性や居住性、デザインなどを考慮して設計を進めていく。ところが、医療ではこうしたプロセスを意識せず、ほぼ自動的にガイドラインに沿ったマニュアル診療が進行していく。最初から医療の道を歩んだ人はあまり疑問を持たないのかもしれないが、工学出身の筆者は大いに違和感を覚えてきた。

2.治療法は、手術>放射線>薬剤>理学療法の4つ
前項に続いて治療法について考えてみよう。
オーソドックスな医療として近代西洋医学を念頭に置いたとき、真っ先に思い浮かぶのが手術である。手術方法の進歩はしばしばマスコミで華々しく取り上げられ、あたかも病気が完全に治るようなイメージを与えている。確かに手術というのはメスや高周波で生体を切り開き、疾患の原因となっている部分を取り除く。だが、その過程で少なくとも生体を傷つけることは避けられない。現に筆者自身も小さいとはいえ大腸がんの腹腔鏡手術の傷跡が残っている。つまり、100%完全に元通りにはなっていないのだ。とはいえ、命を救うためには手術は時に絶大な威力を発揮し、特に救命救急の現場では独壇場ともいえる優れた方法となっている。
2番目の放射線療法は、ほとんどの場合がんの治療で行われる。治療中は熱くも痛くもないが、DNAを傷つけることにより細胞を死滅に追い込むのが基本原理となる。放射線感受性の高い肺がんや喉頭がん、食道がんに適応されることが多いが、欧米はともかく日本では手術に優先して実施されることは少ない。
放射線療法の問題点が2つある。第一は、抗がん剤同様に正常細胞にダメージを与えることである。筆者が強く印象に残っているのは乳がん患者さんで、再発部位に放射線を当てた結果放射線障害で頸部筋の萎縮を起こして頸が変形した人がいた。いまでもその姿を思い出すと心が痛む。
第二の問題点は、同一部位に当てられる照射量に限界があることである。一般に放射線治療では、がん細胞の根絶をめざして病巣に極限量を当てる。そうすると生き残った正常細胞にも放射線照射の影響が残存し、再度放射線を当てると正常細胞が壊死する現象が発生する。こうしたメモリー効果があるので、原則として治療は最初の1回しかすることができない。
3番目の薬物療法は手術や放射線治療の適応でない患者さんに広く行われている。内科ではほとんどこの手段で治療がなされ、治療すなわち薬を処方するとの認識が医師も患者さんにも常識になっている。
この薬物療法も大別して2種類がある。それは、原因療法と対症療法の2つ。
原因療法の代表例としては、細菌感染に対する抗生剤がある。かつて抗生剤がなかったとき、非常に多くの人が細菌感染で命を落としていた。筆者の仏壇にある過去帳を見ても、幼児期や20代など若くして亡くなっている先祖が多数書かれている。年齢から考えて、こうした人達の大部分は感染症が原因と考えられ、今ならば命を落とすことなく生存できたはずだ。
薬物療法の2番目は対症療法といって症状を軽減するのを目的とする使い方である。もちろん抗生剤のように病気の原因をなくすことが理想だが、それが実現できないときにせめて症状だけでも軽減しようという薬剤がある。現実には、このカテゴリーに属す薬剤が大部分だと思われる。一例を挙げれば、高脂血症で頻繁に使われるスタチンという系統の薬剤がある。この薬剤は肝臓でのコレステロール合成を阻害し、それによりコレステロール値は確実に下がる。しかし、コレステロールが高くなる原因の運動不足や過食を取り除くわけではないので、薬を中断すればコレステロール値は再上昇する。すなわち、スタチンは対症療法に分類される薬剤となる。このほかにも痛み止め(鎮痛剤)や痛風用薬剤など、対症療法薬の種類は実に多彩である。ただ、医療上問題となるのは、医師も患者さんも原因療法と対症療法の区別を認識せず、どちらも治療としてひとくくりに考えられていることだ。原因をなくそうとせずに対症療法を続けることが治療のすべてとされ、生活習慣見直しによる体質改善での根本的な解決をめざす努力がほとんど無視されている。一つだけ例を挙げれば、運動不足による心肺機能低下にはいかなる薬も存在せず、有酸素運動のみが解決への道である。
最後4番目の理学療法が治療の柱として認識されているのは、整形外科とリハビリテーション科領域であろう。ソフト整体SPATも整形外科の範疇に含まれている。残念ながら医療の世界では理学療法の地位は高いとはいえず、ほとんどの場合、医師自身が実施せずスタッフに委託されている。しかし、治療方法と生活習慣指導が的確ならば理学療法こそ疾患、特に生活習慣病の根本的解決法となりうる。先ほども述べたように循環器系の根本的な機能回復には有酸素運動以外ない。このことはドイツのハンブルグ大学が冠状動脈狭窄を持つ患者さんの再発率を運動処方群とカテーテル治療群を比較した実験からもわかる。この実験では、運動処方群とカテーテル治療群それぞれ約50名を1年間経過観察し、運動群の再発率が12%だったのに対し、カテーテル群では30%と明らかに運動群の効果が高かった。
なぜ理学療法が根本的な病気治癒に結びつくかというと、後述する操体理論の第3法則で、ゆがみ(感覚異常)→機能異常(内科的検査値異常)→器質破壊(外科的異常)との疾患発生機序があるからなのだ。つまりゆがみが疾患の出発点なので、何らかの有効な理学療法でゆがみが解消されれば、それに引き続いて起きる内科的や外科的疾患も自然と解決されることとなる。

3.誠快醫院の基本理念
最後に誠快醫院の基本理念を述べておきたい。原則として近代西洋医学で病気はある特定臓器の障害としてとらえられ、障害の起きた臓器別に消化器内科や循環器内科、耳鼻科、脳神経外科などの診療科が設けられている。縦割り行政と同じで「臓器別縦割り医療」が原則となる。
また、医療機関を受診して病名が診断されると、その後は診療ガイドラインというマニュアルに則って診療が進められる。ガイドラインに沿って診療が行われている限り、治療効果や副作用について医師の責任が問われることはない。
こうした健康保険医療に対し、誠快醫院ではまったく別の理念で診療している。具体的には、まず正常な機能(臓器の働き)を研究する生理学と正常な形を研究する解剖学の知見を基礎におく。その上で機能の異常による内科的疾患や形の異常による外科的疾患の原因を推定し、根本的な治癒につなげることを目標としている。がんを含めたほとんどの慢性病(=生活習慣病)の原因は、誤った生活習慣なので治療の大原則は生活習慣改善となる。そして生活習慣で改善できるのは、自分で調節可能な呼吸・飲食・運動・ストレス管理・環境整備の5項目しかない。これら5項目の運用を「後が気持いいは、体にいい」の操体原理にのっとってアドバイスし、診療を行うのが誠快醫院の基本理念となる。

2025.11.22投稿