半 身 浴

1.半身浴の目的

お風呂でみぞおちまでをお湯に漬けるのが半身浴ですが、その目的は肺や心臓などの循環器系に負担をかけることなく体を温めることにあります。体を温めることがいかに重要かは、冷えると肝臓に負担をかけて代謝が悪くなり風邪を引きやすくなるなど免疫低下現象が起きることからもわかります。また、体を冷やすことは低体温につながり発癌のリスクが高まります。癌細胞低体温・低酸素・高血糖に適応したいわば「先祖返り細胞」で、体内環境が低温・低酸素・高血糖になると発癌しやすくなったり、癌が発育しやすくなったりします。逆に、癌細胞は高温に弱く、43℃が長く続くと死滅するといわれていました。こうした原理を応用した癌の温熱療法=ハイパーサーミア治療が一時盛んにおこなわれましたが、思ったよりも効果が上がらずすたれてしまいました。効果の上がらない理由を私なりに考えますと、体内を無理に43℃に温めるためにはかなりの熱量を短時間に加える必要があります。こうした過度な高熱量は癌細胞周辺の正常組織を異常な高温にして活性酸素を増加させ、この活性酸素が免疫細胞を含めた正常組織を障害してしまいます。すなわち癌細胞と免疫細胞が同時に弱体化することとなり、これは抗癌剤や放射線治療を強くおこなったときと同じことが起きるのです。半身浴は40℃以下の温度なのでこうした副作用がなく、体温上昇効果のみを得ることができます。実際の癌患者さんの例を挙げれば、1995年発症の肝臓・肺転移を伴った進行大腸癌の方で、徹底的な半身浴と免疫増強剤、食事療法の併用で3年後に完治し、11年後の現在も元気に仕事された方がおられます。

2.半身浴の実際

半身浴実施上の注意点を列記します。

1) 入浴温度

半身浴をおこなうときのお湯の温度は大変重要です。42℃を上回る温度では皮膚表面を中心とする過度な体温上昇で活性酸素が発生してしまいます。また37℃以下などのあまりに低い温度だと半身浴本来の目的である体温上昇作用が得られません。最適な温度38~40℃で、これは入浴していて寒くはないが、しっかり暖かいほどの温度ではありません。むしろ短時間で風呂から出ると寒く感じる温度でしょう。しかし、この温度ならば体温よりは高いので体温上昇作用はありますし、活性酸素を増やすような皮膚・組織への刺激性はありません。正確にこの温度を実現することがきわめて重要なので、自動温度調節付きの風呂釜でも正確な温度計と比較してしっかりと管理する必要があります。

2) 入浴時間

浴槽につかる時間は、39℃程度のぬるい温度でも体温が上がるまで待たなくてはなりませんので最低でも20分以上、できたら30分以上の時間漬かっている必要があります。しかし、体温が上がりすぎて汗をかくほどになったら一旦浴槽から外へ出て少しだけ体温を下げることもよいでしょう。入浴のタイミングは、一日の内で体温がもっとも高くなる夕方がお勧めですが、循環器系の負担が少ない温度ですから食事直後を除けばいつでも可能です。なお、夏の大変暑い時期にはもともと体温が高くなりがちですので入浴時間はそれほど長くする必要はなく、汗や汚れをさっと流す程度でも構いません。夏は過剰な冷房をしない限りは低体温よりも空気の膨張による低酸素に注意することがとても重要です。

3) 椅子について

半身浴のためには水面から上半身を出さなければなりません。そのためには浴槽内で腰掛ける椅子が必要です。入浴時以外には浮かばない構造のものが望ましく、ホームセンターなどで入手可能なようです。

4) 入浴剤

水道水のみの入浴よりも入浴剤を入れた方が体温上昇作用の続くことがあります。もっとも簡単で安価な入浴剤は食塩です。適量の食塩を入れると+0.5℃前後の体温上昇が数時間続くというデータもあります。量は30g程度(大さじ2杯位)で、食塩の種類はJTの粗塩でも問題ありません。食塩を水分の入らない容器に入れ、塩の中でもさびないレンゲ(チャーハン用の陶器さじ)を使って2杯浴槽に入れると約30gとなります。

5) 水分補給

長時間の入浴をするとたとえぬるい温度でも汗をかきます。汗として水分を失うと循環器系に余計な負担をかけ、腹部内臓の循環が悪化して働きを悪くします。こうした負担を減らすため上手な水分補給をしなくてはなりません。実際には低カロリーないし少し薄めたスポーツドリンク入浴前にコップ1/2杯程度飲み、入浴中にも汗をかいてのどが渇いたら飲み物を追加します。

6) ホルミシス効果の利用

数千匹のマウスを使った大規模な実験によれば、適量なラドンを含んだ大気中では免疫が増強し自然発生の肺癌が減少することが知られています。また、ラドン温泉で有名な鳥取県の三朝温泉で岡山大学が行った癌治療で良好な成績が得られているとの報告もあります。しかし、遠方まで温泉療法に出かけるのは現実には困難で、家庭でできるホルミシス効果を取り入れた入浴法法として、ラドンを発生するラジウムセラミックボールを用いる方法があります。方法は簡単で、当院で用意しているラジウムセラミックボールを適当な大きさの洗濯用ネットに入れ、風呂の中に浸しておくだけです。ぬめり等を取るために時々取り出して水道水の中でゆすぐだけの管理で、半永久的に(半減期1600年)効果が持続します。

copyright Tadashi Kashimada、update 2010/9/7

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